名古屋高等裁判所金沢支部 平成9年(ネ)59号 判決 1998年1月14日
大阪市中央区道修町二丁目一番五号
控訴人
小野薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
上野利雄
右訴訟代理人弁護士
高坂敬三
同
夏住要一郎
同
鳥山半六
同
岩本安昭
同
阿多博文
同
田辺陽一
富山市総曲輪一丁目六番二一
被控訴人
日本医薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
田村四郎
右訴訟代理人弁護士
花岡巖
同
新保克芳
富山市新庄町二三七番地
被控訴人
株式会社陽進堂
右代表者代表取締役
下村健三
富山市新庄町二四五番地
被控訴人
前田薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
前田實
富山市八日町三二六番地
被控訴人
ダイト株式会社
右代表者代表取締役
笹山真治郎
右三名訴訟代理人弁護士
安田有三
同
小南明也
同輔佐人
川上宣男
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、平成一〇年七月二一日が経過するまで、原判決別紙目録記載の医薬品を販売してはならない。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文同旨
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
第三 証拠関係
本件訴訟記録中の原審及び当審の書証目録記載のとおりである。
理由
一 当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一二丁裏五行目及び一三丁裏二行目の「法的利益が」の後に「重大でその侵害による違法性が強く、かつ」をそれぞれ加え、同一三丁裏七行目の「救済を図る以外にはない」とあるのを「救済を図れば足りる」と改める)。
特許権は排他的な独占権であり(特許法六八条本文)、特許権者の了解なくして特許発明を業として実施することは原則としてできないが、他方、特許制度の目的が、発明の保護及び利用を図ることにより発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する(同法一条)ことにあることからすれば、独占権である特許権の効力も、発明を独占的に実施する特許権者の利益と発明を実施しえない第三者ないし社会一般の利益との調和を図るという産業政策上及び公益上の見地からその限界が定められることになる(同法六九条等参照)。特許権の存続期間も当然そのような考慮のもとに定められているものであって、右存続期間経過後において何人も特許されていた発明を実施することができることは特許制度の根幹の一つとして厳格に保護されるべきであるということができるから、特許権の効力としてその侵害行為に対する差止請求を認める特許法一〇〇条の規定も当然特許権の存続を前提として認められるものであり、特許権の存続期間満了後においては同条に基づく差止請求は認められないと解するのが相当である(すなわち、同法条の「特許権者」とは現に特許権を有する者をいうと解する)。したがって、本件においては特許権の存続期間満了後においても特許法一〇〇条に基づく差止請求が認められるべきであるとする控訴人の主張はいずれにしても採用できない。
また、控訴人は本件の事情のもとでは、不法行為に基づく差止請求が認められるべきである旨主張する。しかしながら、本件において控訴人が差止請求の対象とする被控訴人らによる医薬品の販売行為自体は、控訴人の主張によっても本件特許権の存続期間満了後に初めて行われたものであり、被控訴人らは右存続期間満了前においては、右期間満了後における医薬品製造販売のための準備行為を行っていたに過ぎないところ、右の準備行為については前述した特許法の目的、特許制度の趣旨に照らしても特許法六九条一項所定の「試験又は研究」に該当するものとして違法性がないと解することも十分可能であるし、仮に右準備行為が違法と評価される余地があるとしても、右準備行為の段階では未だ控訴人との間で医薬品販売について直接的な競合関係は発生しておらず、その販売の段階では控訴人の本件特許権は消滅しているのであって、特許権侵害の態様としては特段悪質な違法性の強いものともいえないのであるから、いずれにしても、本件において、既に存続期間が満了した本件特許権の権利者であった者の保護のために控訴人主張の不法行為に基づく差止請求を肯定することは相当でないというべきであって、控訴人のこの点の主張も採用できない。
二 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 氣賀澤耕一 裁判官 本多俊雄)